民法 条文 | 民法 解説 | |||||||||||||
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第5編 相続 第8章 遺留分 |
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に確保された相続財産の一定割合のことである。被相続人の生前の処分や遺言によっても奪うことのできないものである。 現代において、自分の財産は自由に処分できるのが原則であるが、これを無制限に認めると、配偶者や子供など残された身内に何も残されないという不都合が起こる場合がある。遺留分はそのようなことが起こらないように、一定の相続人に最低限の範囲で残された相続分である。 |
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第1028条 【遺留分の帰属及びその割合】 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。 1 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1 2 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の2分の1 |
被相続人の兄弟姉妹以外の相続人は、次のような割合で遺留分を受けることができる。 1、相続人が直系尊属のみである場合、被相続人の財産の3分の1 2、1号以外の場合は、被相続人の財産の2分の1 遺留分を有する者を、遺留分権利者という。被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に認められている。
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第1029条 【遺留分の算定】 ? 遺留分は、被相続人が相続関始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。 ? 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。 |
? 遺留分は、被相続人が相続開始時においてもっていた財産の額に、被相続人が他人に贈与した額を加え、その合計額から債務(負債)の全額を引いて、計算する。 ? 条件付の権利または存続期間のわからない権利(終期が不明な権利)は、家庭裁判所が選任した鑑定人に評価してもらう。この評価してもらった価格を?の計算に使用する。 遺留分の計算方法は以下の表を参照。
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第1030条 【遺留分の計算の基準となる贈与】 贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によってその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。 |
第1029条の贈与とは、相続開始前の1年間にしたものに限る。ただし、当事者双方が相続人の遺留分にくいこむことを知りながらした贈与は、1年前のものも含む。 相続開始の時からあまりに時間が経過した贈与まで含まれるとなると、もらった方が不安定になるので、1年間と限定されている。 |
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第1031条 【遺贈又は贈与の減殺請求】 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。 |
被相続人が遺贈や贈与をしすぎたため、相続人に残されるべき遺留分にまでくいこんだ場合、遺留分権利者やその承継人は、遺贈や贈与からくいこんだ分を取り戻すことができる。 本条の権利を、遺留分減殺請求権という。減殺はゲンサイと読み、取り返すという意味である。 例えば、夫が1000万円の財産のうち、900万円をAに与える遺言をしたとする。相続人は妻だけだった場合、妻は遺留分として500万円を受け取ることができる。400万円が遺留分にくい込んでいるので、妻はAに対して500万円だけを渡せばよいことになる。ただし、遺留分減殺請求権を行使するかどうかは、遺留分権利者にあるので、妻は100万円だけを受け取り、遺言通り900万円をAに渡すこともできる。 |
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第1032条 【条件付権利等の贈与又は遺贈の一部の減殺】 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利を贈与又は遺贈の目的とした場合において、その贈与又は遺贈の一部を減殺すべきときは、遺留分権利者は、第1029条第2項の規定によって定めた価格に従い、直ちにその残部の価額を受贈者又は受遺者に給付しなければならない。 |
条件付の権利または存続期間のわからない権利(終期が不明な権利)が贈与または遺贈されている場合において、その贈与または遺贈の一部を減殺するとき、遺留分権利者はその贈与または遺贈の全部をいったん取り返さなければならない。そして、遺留分権利者は第1029条第2項の規定によって定めた価格に従い、取りすぎた分を受贈者または受遺者に返さなければならない。 | |||||||||||||
第1033条 【贈与と遺贈の減殺の順序】 贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができない。 |
遺留分の減殺請求は、まず遺贈から行い、それでも足りなければ贈与に対して行う。 | |||||||||||||
第1034条 【遺贈の減殺の割合】 遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。 |
複数の遺贈がされている場合は、それぞれの遺贈から、その見積もり価格の割合に応じて遺留分にくいこんだ分を減殺する。ただし、遺言者が遺言で特別の意思を表示しているときは、その意思に従う。 例えば、Aに100万円、Bに50万円の遺贈がされており、90万円を減殺する(取り返す)必要があるときは、Aから60万円、Bから30万円を差し引いて取り返すことになる。 |
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第1035条 【贈与の減殺の順序】 贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする。 |
複数の贈与がされている場合は、後の(一番新しい)贈与から順番に減殺していく。 例えば、3年前にされた贈与と1年前にされた贈与があれば、まず1年前にされた贈与から減殺していくことになる。それで足りなければ、3年前にされた贈与からも減殺する。 また、複数の贈与が同時にされた場合は、その価格の割合に応じて減殺することになる。 |
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第1036条 【受贈者による果実の返還】 受贈者は、その返還すべき財産のほか、減殺の請求があった日以後の果実を返還しなければならない。 |
受贈者(贈与を受けた者)が、遺留分減殺請求により贈与された財産を返還しなければならないときは、減殺請求があった日から受け取っている果実(収益)も返還しなければならない。 | |||||||||||||
第1037条 【受贈者の無資力による損失の負担】 減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。 |
受贈者(贈与を受けた者)が、遺留分減殺請求により贈与された財産を返還しなければならない場合、無資力により返還に応じられないときは、遺留分権利者はその損失を負担しなければならない。 例えば、Aに100万円の贈与がされ、次にBに100万円の贈与がされたとする。そして、遺留分をもつ相続人が自分の遺留分にくいこんだ50万円を取り返す場合、Bに対して減殺請求をすることになる(第1035条参照)が、もしBが30万円しかもっていなかった場合、相続人は30万円しか受け取ることができない。残りの20万円はAに対して請求することはできず、相続人の負担となる。 |
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第1038条 【負担付贈与の減殺請求】 負担付贈与は、その目的の価額から負担の価額を控除したものについて、その減殺を請求することができる。 |
負担付贈与は、贈与価額から負担価額を差し引いたものについてだけが減殺請求できる。 例えば、Aに300万円の土地が贈与されたが、150万円を寄付することという負担がついていたとする。そして、遺留分をもつ相続人が自分の遺留分にくいこんだ200万円を取り返す場合、Aに対しては150万円分しか取り返すことができない。 |
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第1039条 【不相当な対価による有償行為】 不相当な対価をもってした有価行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、これを贈与とみなす。この場合において、遺留分権利者がその減殺を請求するときは、その対価を償還しなければならない。 |
被相続人が不相当な値段(不相当な時価)で財産を取引した場合、被相続人とその取引の相手方が、それが遺留分権利者に損害を与えることを知っていたのであれば、この取引を贈与とみなす。この場合、遺留分権利者が減殺を請求する場合、その対価を返さなければならない。 例えば、被相続人が、時価にして500万円の土地をAに100万円で売った場合、Aに400万円の贈与があったものとみなす。もし、遺留分権利者が減殺請求をした場合、土地を取り戻した上で、100万円をAに返すことになる。 |
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第1040条 【受贈者が贈与の目的を譲渡した場合等】 ? 減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。 ? 前項の規定は、受贈者が贈与の目的につき権利を設定した場合について準用する。 |
? 受贈者が、遺留分減殺請求を受けたが、贈与されたものを他人に譲り渡していたときは、遺留分権利者に贈与されたものに相当する価額を弁償しなければならない(他人から買い戻して返却する必要はない)。ただし、受贈者から譲り受けた者が、譲渡の時において、遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は譲り受けた者に対しても減殺請求をすることができる。 ? ?の規定は、受贈者が、贈与された物に地上権や抵当権などの権利を設定した場合について準用する。 |
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第1041条 【遺留分権利者に対する価額による弁償】 ? 受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。 ? 前項の規定は、前条第1項ただし書の場合について準用する。 |
? 受贈者や受遺者は、遺留分減殺請求があったとき、贈与や遺贈された財産自体を返す必要はなく、その財産に相当する価額を弁償することによって義務を免れることができる。 ? ?は、第1040条第1項但書の場合について準用する。つまり、受贈者から譲り受けた者が遺留分権利者から減殺請求を受けたとき、その物自体を返さず、相当する価額を返すことで義務を免れることができる。 減殺請求を受けた者は、その財産自体を現物で返すか、金銭により返すかを選択できるという趣旨の条文である。 |
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第1042条 【減殺請求権の期間の制限】 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。 |
遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、相続の開始と遺留分にくいこんでいる贈与や遺贈があることを知った時から1年たつと、時効により消滅する。また、相続開始から10年たつと、同様に消滅する。 | |||||||||||||
第1043条 【遺留分の放棄】 ? 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。 ? 共同相続人の1人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。 |
? 相続人となるはずの者は、家庭裁判所の許可を受ければ、相続の開始前であっても、遺留分の放棄をすることができる。 ? 相続人が複数いる場合、そのうちの一人が遺留分を放棄しても、残りの相続人の遺留分に影響はない(残りの相続人の遺留分が増えるわけではない)。 例えば、被相続人に子供が一人いる場合、被相続人は相続財産のうち2分の1を自由に処分ができ、残りは遺留分として子供が相続することになる。もし、子供が遺留分を放棄した場合は、被相続人は自由に全財産を処分できる。だが、これを子供が自由に放棄できることになると、子供は何らかの理由により無理やり遺留分を放棄させられる可能性もあるので、必ず家庭裁判所の許可が必要ということにしている。また、相続が実際にはじまってからは、遺留分減殺請求をするかしないかは、遺留分権利者の自由である。 |
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第1044条 【代襲相続及び相続分の規定の準用】 第887条第2項及び第3項、第900条、第901条、第903条並びに第904条の規定は、遺留分について準用する。 |
第887条第2項及び第3項、第900条、第901条、第903条並びに第904条の規定は、遺留分について準用する。 詳しくは以下の表を参照。
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Author:民法マン
秩序のない現代にドロップキック!
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