民法 条文 | 民法 解説 | |||||||||||||
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第2編 物権 第8章 先取特権 第2節 先取特権の種類 |
先取特権には、債務者の総財産を目的とする一般先取特権と、債務者の特定の財産を目的とする特別先取特権がある。特別先取特権はさらに2種類に分かれる。以下の表を参照。
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第1款 一般の先取特権 第306条 【一般の先取特権】 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。 1 共益の費用
2 雇用関係
3 葬式の費用
4 日用品の供給
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次の1から4までの原因によって生じた債権を持つ者は、債務者の全財産に対して成り立つ先取特権を持ち、他の債権者よりも先に支払を受けることができる。 1、数人の債権者がいる場合、共同の利益のために費やした費用 2、雇用関係 3、葬式費用 4、日用品の供給 1から4については、第307条から第310条においてさらに規定がある。 |
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第307条 【共益費用の先取特権】 ? 共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在する。 ? 前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。 |
? 共益費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにした債務者の財産の保存行為、清算行為、配当に関する費用について認められる。 ? ただし、?の行為が債権者の一部にだけ利益となる場合には、その利益を受けた債権者に対してのみ先取特権を主張することができる。 |
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第308条 【雇用関係の先取特権】 雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。 |
雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について認められる。 会社の使用人、事務所の事務員など労務を供給する者のことである。 雇用関係に基づいて生じた債権については、種類や期間に関わらず、全て先取特権によって担保される債権に含まれる。 |
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第309条 【葬式費用の先取特権】 ? 葬式の費用の先取特権は、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在する。 ? 前項の先取特権は、債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額についても存在する。 |
? 葬式費用の先取特権は、債務者が身分相応の葬式をした場合の費用について認められる。 ? 葬式費用の先取特権は、債務者が扶養しなければならない親族の身分相応の葬式費用についても認められる。 葬儀費用について負担した者は、債務者の遺産に対して先取特権が認められている。 |
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第310条 【日用品供給の先取特権】 日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の6箇月間の飲食料品、燃料及び電気の供給について存在する。 |
日用品の供給をした者の先取特権は、債務者または債務者が扶養しなければならない同居の親族および家事手伝い人などの生活に必要な最後の6カ月の食料および燃料などの代金について認められる。 | |||||||||||||
第2款 動産の先取特権 第311条 【動産の先取特権】 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。 1 不動産の賃貸借 2 旅館の宿泊 3 旅客又は荷物の運輸 4 動産の保存 5 動産の売買 6 種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給 7 農業の労務 8 工業の労務 |
次の1から8までの原因によって生じた債権を持つ者は、債務者の特定の動産に対して先取特権を持ち、他の債権者よりも先に支払を受けることができる。 1、不動産の賃貸借 2、旅館・ホテル等の宿泊 3、旅客または荷物の運送 4、動産の保存 5、動産の売買 6、種苗または肥料の供給 7、農業の労務 8.工業の労務 1から8については、第312条以下に規定がある。 本条からは、債務者の全財産ではなく、そのうちの特定の財産を目的とする先取特権について規定されている。 また、民法の規定以外にも、商法で船舶債権者の先取特権や海難救助の先取特権などがある。 |
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第312条 【不動産賃貸の先取特権】 不動産の賃貸の先取特権は、その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し、賃借人の動産について存在する。 |
不動産の賃貸の先取特権は、不動産の賃借料、その他賃貸借の関係から生ずる債権について認められ、これは債務者の動産から支払ってもらえる権利である。 例えば、AがBに建物を貸したとする。Bはその建物の一部を壊した。この場合、Aは債務者であるBの動産に先取特権が認められ、取り立てることができる。 |
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第313条 【不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲】 ? 土地の賃貸人の先取特権は、その土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。 ? 建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。 |
? 土地の賃貸人の先取特権は、借地に備え付けた動産、借地を利用するために作られた建物に備え付けた動産、土地の利用のために使用している動産、土地からの果実(収穫物などのこと)について認められる。 ? 建物の賃貸人の先取特権は、賃借人が借りている建物に備え付けた動産について認められる。 |
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第314条 【不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲の拡大】 賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても、同様とする。 |
賃借人が、賃借権を他人に譲渡したり貸したりした場合には、賃貸人の先取特権は、賃借権を譲渡された人やまた借りした人の動産の上にも成り立つ。また、賃借権を譲渡したりまた貸ししたことにより、もとの借主が受けることになる金銭からも、先取特権に基づいて債務を取り立てることができる。 | |||||||||||||
第315条 【不動産賃貸の先取特権の被担保債権の範囲】 賃借人の財産のすべてを清算する場合には、賃貸人の先取特権は、前期、当期及び次期の賃料その他の債務並びに前期及び当期に生じた損害の賠償債務についてのみ存在する。 |
賃借人が破産などをして財産の全てを清算しなければならない場合、賃貸人の先取特権は、前期、当期、次期の間に発生した地代や家賃その他の債務および前期と当期に発生した損害の賠償金についてだけ認められる。 当期というのは、清算をする期間のことである。例えば、毎月月末に賃借人からの支払があるのであれば、その月のことである。前期とは、その前の月、次期とはその次の月のことである。 |
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第316条 【敷金がある場合】 賃貸人は、敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。 |
賃貸人は、貸すときに敷金を受け取っていた場合、その敷金をまだ弁済を受けていない債権にあて、まだ足りなければ足りない部分についてのみ先取特権が認められる。 | |||||||||||||
第317条 【旅館宿泊の先取特権】 旅館の宿泊の先取特権は、宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料に関し、その旅館に在るその宿泊客の手荷物について存在する。 |
旅館に泊まった旅行者や同伴者の宿泊料及び飲食料などの先取特権は、旅行者や同伴者が旅館に持ち込んだ手荷物について認められる。 本条は、旅館だけではなくホテルや下宿屋などについても適用される。また、手荷物についても、旅行のために携帯している動産について広く認められている。 |
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第318条 【運輸の先取特権】 運輸の先取特権は、旅客又は荷物の運送賃及び付随の費用に関し、運送人の占有する荷物について存在する。 |
旅行者を運んだり、荷物を運んだり(荷造り費なども含む)する費用の先取特権は、運送人が手元にもっている荷物について認められる。 | |||||||||||||
第319条 【即時取得の規定の準用】 第192条から第195条までの規定は、第312条から前条までの規定による先取特権について準用する。 |
悪意や過失なしに、動産を占有した場合について書かれている第192条から第195条までの規定は、第312条から第318条までの先取特権について準用される。 本条は、つまり、悪意や過失なしに間違った場合は、債務者の物ではない他人の物でも先取特権が成り立つということである。 例えば、旅館に泊まった人が宿泊料を支払わなかった場合、泊まった人の手荷物について先取特権が認められているが、その中にあったカメラが泊まった人のものではなかったとき、そのカメラを泊まった人のものであると信じていた場合は、先取特権は成り立つということである。その後の処理は、泊まった人とカメラを貸した人との間で処理することとなる。 |
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第320条 【動産保存の先取特権】 動産の保存の先取特権は、動産の保存のために要した費用又は動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関し、その動産について存在する。 |
動産の保存のための費用又は動産に関する権利の保存・承認・実行のための費用についての先取特権は、その動産について認められる。 権利の保存とは、時効によって他人に取得されないように法律上の手続きをして保存するようなことをいう。 権利の承認とは、債務者の物を持っている第三者に、それが債務者の所有物であることを承認させたりすることをいう。 権利の実行とは、第三者のもっている債務者の物を、債務者に返還させたりすることをいう。 |
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第321条 【動産売買の先取特権】 動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在する。 |
動産を売った代金及び利息についての先取特権は、引き渡した動産の上に成り立つ。 | |||||||||||||
第322条 【種苗又は肥料の供給の先取特権】 種苗又は肥料の供給の先取特権は、種苗又は肥料の代価及びその利息に関し、その種苗又は肥料を用いた後1年以内にこれを用いた土地から生じた果実(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉の使用によって生じた物を含む。)について存在する。 |
種子・苗・肥料を売った時の代金および利息についての先取特権は、その種子・苗・肥料を使って1年以内に土地から取れた収穫物について認められる。また、蚕の種・桑の葉を売った代金および利息についての先取特権も、それらによって生じたものについて認められる。 | |||||||||||||
第323条 【農業労務の先取特権】 農業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の1年間の賃金に関し、その労務によって生じた果実について存在する。 |
農業に携わった労働者に対して賃金が支払われなかった場合に認められる先取特権は、最後の1年間の賃金について認められ、その労働により生じた収穫物について成り立つ。 | |||||||||||||
第324条 【工業労務の先取特権】 工業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の3箇月間の賃金に関し、その労務によって生じた製作物について存在する。 |
工業に携わった労働者に対して賃金が支払われなかった場合に認められる先取特権は、最後の3ヶ月の賃金について認められ、その労働により生じた製作物について成り立つ。 | |||||||||||||
第3款 不動産の先取特権 第325条 【不動産の先取特権】 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の不動産について先取特権を有する。 1 不動産の保存 2 不動産の工事 3 不動産の売買 |
次の1から3までの原因によって生じた債権を持つ者は、債務者の特定の不動産について行使できる先取特権が認められる。 1、不動産の保存 2、不動産の工事 3、不動産の売買 |
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第326条 【不動産保存の先取特権】 不動産の保存の先取特権は、不動産の保存のために要した費用又は不動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関し、その不動産について存在する。 |
不動産の保存費用、不動産の権利の保存・承認・実行のための費用に関する先取特権は、その不動産について認められる。 | |||||||||||||
第327条 【不動産工事の先取特権】 ? 不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在する。 ? 前項の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額についてのみ存在する。 |
? 工事の設計をした者、施工又は監理をした者などの不動産工事費用についての先取特権は、その不動産について認められる。 ? ?の規定は、工事をしたことによって不動産の価格が上がった場合に限り、その上がった部分にだけ先取特権が認められる。 本条の規定は、第338条により、工事前に工事費用の予算額を登記した者に限り、先取特権が認められる。 |
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第328条 【不動産売買の先取特権】 不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する。 |
不動産を売った場合の先取特権は、売主が不動産の代金や利息を支払ってもらうために、その売った不動産について認められる。 |
Author:民法マン
秩序のない現代にドロップキック!
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